私と義弟とバレンタイン【短編】
「……されたよ、一人だけど」
ぼそり、と呟かれた言葉に、もう一つとチョコレイトに伸ばしていた手が止まる。
健太を見なくてもわかる。
彼は、私の反応を伺っている。
だから、ここは冷静に切り返さなくては。
ちゃんと、『普通の姉ちゃん』の反応をしなければ、せっかくさっきはぐらかせたのに、またフリダシし戻ってしまう。
何事もなかったように、再度チョコレイトに手を伸ばして、包みを開けて口の中に放り込んだそれは、たしかにほろ苦くとっても甘い味のはずなのに、なんだか鼻にツンとくる。
「へー!さすがあたしの義弟!モテてるようであたしも誇らしいわあ」
ぐふふ、と笑ってバシンと健太の肩を叩く。
「モテない姉ちゃんと一緒にされたくないんだけど。
つか、そもそも血繋がってないし」
「っるっさいなー、細かいことはいいの!」
ねえ、あたしちゃんと『普通』に出来ているかな?
……本当はなんて返事したか気になる。
付き合うことになったのかな。それとも、断ったのかな。
『普通の姉ちゃん』だったら簡単に聞けるんだろうけど。
でも。
でもあたしは、聞けない。
………だってあたしは、この、認めちゃいけない感情のせいで、どんな答えであろうときっと泣きたくなってしまう。
だから、必死に笑顔を貼り付ける。
こわばる頰の筋肉。キョドりそうになる相槌。
できるならこの場を早く切り上げてしまいたい。
………ボロが出る前に、早く。
「………うそくさ」
ポツリと落ちた健太の言葉に、ハッと我に返る。