私と義弟とバレンタイン【短編】



「なに、無理して笑ってんの、姉ちゃん」



その言葉に一瞬で剥がれ落ちた笑顔。
必死で元の笑みを作ろうとして、失敗して、へにゃりと変な顔になった。



健太の眼差しは真っ直ぐに私を捉える。



哀しいくらい、彼の瞳は私を好きだと言っている。
今も、昔も、ずっと変わらず。



その瞳は私だけじゃない。
母も義父も気付いていた。



だからこその打診だったのだ。
健太と、なるべく早く遠くに離れてくれ、と。



ねえ、



私だって。



私だって、この子供みたいな、5歳も年下の男の子が、ずっとずっと欲しかったのに。



どうして私は、義姉というだけで彼に想いを伝えられないのだろう。



どうして。



私は貴方が好きなんだろう。



「………無理?
してないよ、別に。なんであたしが無理して笑う必要あるの。
いくら彼氏いたことないからって、義弟に彼女できて僻むほど余裕ないわけじゃないし」



「そんな顔しながらそんなこと言われたって説得力ねえよ。
………もういい加減、誤魔化すのやめろ、姉ちゃん」



「誤魔化す?
健太が何言ってるかわかんないよ。あたしは別にーー…」



「じゃあ、こうなってる理由教えて」



健太の指が頰を撫でる。
指の熱が、私の涙と混ざって熱い。



「………泣いてなんか、ない」



もう、誤魔化し切れない。
けれど、私は何度も誤魔化せないかと頭をぐるぐる働かせる。



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