私と義弟とバレンタイン【短編】
「……期待、しちゃいそうなんだけど」
健太の、熱に浮かされたような瞳。
じっと見つめられると、何も考えられなくなる。
「そんな風になってるのは、俺が告白されたって聞いたから?
俺に彼女ができたって思ったから、こんなに泣いちゃってるって解釈しちゃうよ」
頰に添えられた指が、顎を伝い、唇を親指で擦られる。
そうされることが当たり前みたいに、私は健太のされるがままになる。
「ねえ、楓(かえで)」
掠れた声が私の名を呼ぶ。
姉ちゃん、よりも甘い響きに頭の奥がじんじん痺れる。
「知ってるだろ?……俺、楓が好きなんだ」
その言葉を、やっと聞けたと身体中が叫んでいた。
見開いた瞳からは次々と涙が滑ってゆく。
「きっとまだ出会って間もない頃、俺が楓の視界にだって入らない頃から、俺は楓だけ見てたよ」
私はきっと、どこかでそれすら気付いていた。
それくらい、健太の想いを感じていた。
だから、私も言ってしまいたかった。
何も考えず、貴方に想いを、同じ分だけ返したかった。
私だって、健太が大好きだって、伝えてみたい。
でも、それと同じくらい、私はあなたの義姉でなければならないとも思う。
義姉であることが貴方の傍に居続けられることだとも思う。
それに、やっと母が掴んだ家族を私は………壊したくない。
それが私たち二人にとって酷なものだとしても、家族であり続けることが両親の望むことだとも知っている。
22歳の私は、17歳の義弟よりも感情論だけで突っ走れはしないのだ。