私と義弟とバレンタイン【短編】
「健太、もう遅い」
「………楓?」
「明日には県外に引越して四月から私は社会人だし、健太は来年には大学生。
色んな出会いがあって、私たちを取り巻く環境は否応なく変化して、きっと私たち自身も変わっていく」
「…………」
「その中で、どうしてこの気持ちだけが変わらないなんて言える?
離れれば、きっと嫌でも分かる。
一緒にいないことで、周りに目が向いて、他に大事な人ができて、
義理の姉なんかに恋愛感情を持っていたことが、いつか恥じるべき思い出に変わる」
「そんなこと、」
「そんなこと、あるよ。永遠なんてきっとないよ。
私の昔のパパとママがそうだったように、永遠だと思ってたものも、ほんのちょっとのズレで簡単に壊れちゃう。若ければなおさら。
ーー好きなんて、付き合うなんて、簡単に言えない。
一時の感情で付き合って、そして別れたら、それだけで、私たちはまた家族を失うんだよ。
………私から、健太を取り上げるの?」
ぐっと、歯を噛み締めて健太は顔を伏せた。
これが現実だと思う。
いくら好きでも。
この恋が永遠だと信じていても。
本当にそうかなんてきっと誰にもわからない。
私だって、健太が好きだ。
でも、好きだけじゃどうしようもないこともある。
これが私の結論だった。
けれど健太は、顔を上げる。
悔しそうに、泣きそうな顔を必死で堪えて私を見据える。
熱い、焼け付くような、眼差し。
その目が、彼の全てを表してるようだった。