私と義弟とバレンタイン【短編】
「……わかんねーよ」
「今は、分かんないだけ。いつか、分かる」
私だって分かっていないことを、
義姉というだけで言わなければならなかった。
ーーしかし、彼は言うのだ。
「……楓だって、わかったふりしてるだけだろ。そうやってずっと自分に言い聞かせてるんだ。
お前だって、納得なんてしてないはずだ。
わかったふりして、納得してる素振りだけみせて、お前はいつまで『姉ちゃん』演じるつもりだよ」
虚を突かれて目を見開く。
この子は、……もしかしたら、全部わかっているのではないか。
「お前から俺を取り上げるなってなんだよ!!
お前は、『楓を好きな健太』じゃない。単に『義弟』としての俺を取り上げられたくないんだ!!
そうしないと義母さんが悲しむからだろ?」
ぎゅ、と強く腕を握られる。
光が差すような強い眼差しに息もつかない。私は義弟を見つめ続ける事しか出来ない。
「……知ってるよ。俺は、お前が思ってる以上に楓を知ってる!
知ってるから、好きになったんだ。
知ってるんだよ、………お前が俺を好きだって、知ってるんだ」
ーーああ、この子は。
全部、ぜんぶ知ってたんだ。
ぶわり、とまた涙が溢れる。
「もう、楓の気持ちは十分すぎるほど伝わってる。
隠さなくたって、いいんだ。
お前が背負ってるものを、俺にだって背負わせてくれていいんだよ」
この子はずっと、私の気持ちなんて知らないと思っていた。
気持ちを押し込めて封じ込めて、この家を出て一人ぼっちになって。
我慢するのは私だけだって、そんな風に思っていた。
でも。
私はもう、健太に隠す必要なんてないって、そう信じていいのだろうか。
この気持ちを口にしても、いいのだろうか。