私と義弟とバレンタイン【短編】
「………好きだよ。
健太、あたし、健太が好き……」
泣きじゃくって、ぐしゃぐしゃのまま吐き出した言葉は、
義弟の唇で強引に封じられた。
ああ、もう戻れないな、と
諦めと安堵がないまぜになった気持ちのまま目を閉じる。
認めてしまえば、あとは転がり落ちてくだけだ。
「……家族を壊したくないって言ったってさ、
姉ちゃんが必死に壊さないように無理してた時点で、俺ら家族はもうダメだったんじゃないの」
そっと剥がされた唇から吐かれた言葉は酷く残酷だった。
どんな顔してそんな言葉を吐くのだろうと目を開けると、目の前には今まで見たことのない、オトコの顔をした義弟がいる。
「誰かが無理して成り立つ家族ならさ、」
そう言って義弟は一度言葉を切り、ニヤッと笑う。
「一回ぶっ壊しちゃえばいいんじゃねーの」
あまりに独りよがりで自分勝手な話だと思う。けれどその言葉に私は思わず笑ってしまう。
「確かに現実は残酷で、なんとかなるなんて軽々しく口にできるほど甘くはないって分かってる。
俺の気持ちも、姉ちゃんの気持ちも、いつ変わっちゃってもおかしくない。
でも、俺、思うんだ」
言葉を紡ぐその顔が、あまりに大人びていて
思わず私は息を飲む。