先生とチョコ。
「...先生、チョコあげます」
彼の背中に向かって言ってみる。
「だめですよ、ちゃんと好きな先輩にあげてください」
もう泣きそうになって彼に背を向けた。
「...もう、いい」
私は持っていた彼にあげる筈だったチョコを開けて、一粒口に入れた。それは甘く口の中に広がってきて、視界が歪んでいく。
また一粒手にとって、口へと運ぼうとして、その手は持っていかれてしまった。
気付いた時には、先生の顔が目の前にあって。私の手を自分の方へやり、チョコを食べたのだ。
「...せ、先生」
「ん?」
「なにやってるんですか?」
「何って、チョコをもらったの」
そう、さも、当たり前のように言った彼に、頭が全くついていかない。
「...もらったって..」
「それ、僕にくれようとしたものじゃなかったの?」
「......え、どうして」
なんで彼は知っているのか。まさに、その通りで、彼に渡すはずだった。けれど、彼は、私の好きな先輩に渡すものだと思っていたはず...。
ちらっと彼へと視線を向ければ、悪戯に笑っていて。彼は初めから、私の気持ちを知っていたのだろう。なんて、意地悪い人だと思った。けれど。
「...先生」
「なんですか?」
「私は、先生が好きです」