先生とチョコ。
そう、はっきりと言ってみせた。
彼は少しだけ驚いたように眉を上げて、それからすぐに楽しそうに静かに笑った。
「....君がここに来る度、またかと思いながら、僕はきっとどこかで君が来るのを、待っていたのかもしれない。」
「....え」
「でも、君は僕に恋愛相談してくるし。嘘って解っていても、やっぱりちょっと妬けるよね。」
そう言った彼は、どこかやるせないような顔をして、切なく微笑んでいた。
それじゃあまるで、私のことを好きだとでもいうように感じてしまう。
「...先生、それって私のこと」
その続きを言えなくなってしまったのは、彼がそっと自身の口元に、長い人指し指を立てたのだ。
それから綺麗に微笑んだ彼、私はただそんな彼に見惚れていた。すると、彼の顔が近付いたと思ったら、いつの間にか唇と唇がくっついていて。
驚きで何も言えなくなった私に、彼は舌を出して、"甘い"なんて言ってクスッと笑った。
すっと背を向けた彼。
大事なことは何も言ってくれない。
「...先生はずるいです」
そう呟いてみれば、彼は振り返って
「狡いのは君の方だよ」
「どうしてですか?」
「フライングするから」
「....え?」
「卒業まで待とうと思ってたのに」
そう言って、わざとらしく溜め息する彼は怒っているように見えるけど、その口元は緩んでいて。
理解できない私に彼は言う。
「卒業式のあと、ここに来て下さい」
「は、はい」
「...君に伝えたいことがあります」
そう言って、顔を隠すように彼は背中を向けて、また実験の準備を始めたのだった。
*end*