ふたり



「あ、あのねッ!私‥好きな人が出来たのッ!」


そう言って、顔を赤く染める彼女は可愛かった。


だから、余計に見たく無かった―。


友達に好きな人が出来たのに素直に喜べない私。



―酷いよね‥?



いつもなら、素直に気持ちを伝える私なのに‥、

精一杯の笑顔で嘘をつく。


「ほ、本当ッ?良かったね♪」


―誰なの?

その一言が聞けない臆病な私。



ただ、唯尋から話すのを待った‥。






人に絶対に嘘はつかなかった私。

だから、ハブにされた時もあった。



けど、絶対に嘘はつかなかった。


―大人になると嘘をつくのが多くなる。



その言葉が大嫌いだった私。


だから、嘘はつかなかった。
大人になんかならなくても良い。


―って思ってた。



小学校4年生の時、愛人の居る父の言った言葉は


幼い私にひとつの色を付けていった。


黒く歪んだ色。

子供の私が知らない色。



コレが大人なんだと思った。




私は、大人になってしまった。


あの、黒く歪んだ大人に
一歩近付いた。






―自分が見えなくなった。













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