[短篇集]きみが忘れたむらさきへ。
わかっている、わかっているけれど。
それを素直に受け止める事が出来ない。
「また今度」なんて私達は言わない。
暗く狭い世界から、眩しく広い世界に出る瞬間、私達に言葉はない。
ただ、他人のフリをして背を向けるだけだ。
今日、この時間が終わってしまえば。
向けられた背中を目で追うことも
肌をなぞる指先に感じることも
鼓膜をくすぐる吐息を聞くことも
汗ばむ肢体を触れ合わせることも
全部、なくなる。
「いやっ……いやぁ…」
子供みたいに泣き喚いて、彼を困らせる。
額に張り付いた髪を払って、梳いてくれる手は優しい。
頬や額、首筋に落とされる口付けも優しい。
最後の、最後。
いっそ乱暴にして欲しい。
壊して欲しい。
どうやったってあなたを求めてしまう私には、夢の終わりを受け止める強さなんてない。