[短篇集]きみが忘れたむらさきへ。
明日、明日だ。
木漏れ日がやがて茜色に染まり、深い藍を連れて夜がやって来たら
僕らはこの場所で手を振り合って、背を向けて、そのままもう会う事はなくなる。
朝が来て、君がいない事実を受け止める覚悟など出来ていないし、したくもなかった。
「弱いね、わたし達は」
俯いた君の小さな声が、悲痛げな叫びに聞こえた。
僕らはいつも、逆らう術を知らない。
握り合った手を離さないでいられると、本気で思っていた。
愛し合えば、永遠を紡ぐ事が出来ると、本気で夢見ていた。
知らなかったんだ。見ないフリをしていたんだ。
僕らの弱さは誰にも利用されないと決め付けて、ひた隠しにする事に専念した。
強さに変える術を、理由を、意味を知らなかった。
今もまだ、鼓動が震える。
脈動が、更に細やかな振動をする。
そうして僕は、君が好きだという事を知る。