[短篇集]きみが忘れたむらさきへ。
木々が陰り、君の表情を覆う。
啜り泣くような、嗚咽を堪える様な、微かな音に耳を澄ませる。
心臓は脈打って、君への想いを叫んでいて。
言葉にして、いいだろうか。
君に触れて、いいだろうか。
君が、僕を想う音を聴かせて。
鼻の奥がツンと痛んで、目の裏側が熱くなる。
眉間に力を込めてそれに堪え、僕は彼女の腕を思い切り引いた。
弱くて、ごめん。
君を想う心以外に、僕は何も持っていなかった。
大きく膨れ上がった想いは僕と君を繋いだけれど、それだけだったんだ。
細くて頼りなくて、けれど、確かなそれだけが僕らの全てだった。