[短篇集]きみが忘れたむらさきへ。
薄い車窓の向こう側には、あぜ道がどこまでも続いている。
ところどころ刈られてはいるけれど、田んぼには風に揺れる稲が果てしなく並んでいて、まるで別世界に迷い込んだようだった。
すぐに発車をして、且つ一番遠くまで行く電車の終点までの切符を買ったけれど、わたしも功も、この先は地名を聞いた事がある程度。
「ド田舎だな。コンビニとかなさそー」
「夜ご飯、どうしよっか?」
「さあ?何か店探して、なかったらどっかの家に邪魔すればいいよ」
またそんな適当な事を言って。
無計画な逃避行に付き合わせているのはわたしで、そんな事は百も承知だけれど。
でも…それでも、功の脳天気な発言には驚かされる。
同時に安心感を覚える事をよく知っているから、彼を連れてきた。
一緒に行くのなら、功しか思い浮かばなかった。
適当な事を言っているようで、功なら自慢の話術とその場のノリで何とかしてしまいそうだから、真っ向から否定が出来ない。
やっぱり、功が来てくれて良かった。