[短篇集]きみが忘れたむらさきへ。
きっと、君はくだらないと笑うだろう。
自分の存在が醜く澱んだ黒一色に思えて、世界のどこにも溶け込めないような感覚に怯える僕の事を。
縁取りされた四角形の中から取り零された僕は、もうどこにも戻れない気がして
逃げる事を、良しとしたんだ。
ただ、誰の後押しも要らないけれど、小さな小さな僕の背中を、誰か一人でも見掛けていてはくれないかと、そんな期待も拭えなかった。
『羨ましい』
君のその言葉の意味を僕は知っていたけれど、飲み込む事は出来なかった。
自分にない物を羨むのは仕方がない事で、自分に誇れる物が何もない事を思うと、恨めしくなる。
溶け込む事、溶け込まない事。
きっと僕らは、お互いが欲しい物を持っていた。