[短篇集]きみが忘れたむらさきへ。
好きなのに上手くいかない。
それで駄目になったのなら、きっぱり別れてしまえばいいんだ。
泣いたって辛くたって、ほんの些細なことで立ち直れるうちは、それでいい。
お互いのことをほとんど知っていて、知らない部分は黙認出来てしまう関係になってから、駄目なら仕方ないと割り切ろうとしても、上手くいかないし下手は出来ない。
会社から帰宅する時とはまるで違う気分と歩調なのに、あの人は追いかけて来ない。
すぐに取れるようにと手に握った携帯電話も、黙り込んだまま。
別に、これが今生の別れとなるわけはなくて。
日が経てばどちらからともなく、たぶんあの人からだけれど、連絡があって。
そしたらまたプロポーズから仕切り直して、あの人の鞄の中にちらりと見えた四角い箱の中身を、わたしの指に収めることになるのだけれど。
それでいいのかな、とも思う。
これがわたし達の形で、誰も文句なんか言わないんだから、いいじゃない。
不満も不安も、まあそれなりにあるけれど、ぶつけてさよならとはならない。