[短篇集]きみが忘れたむらさきへ。
無力飛行
空を飛べない僕たちは、あの青に触れる方法を知らない。
焦がれても焦がれても、どれほどこの手を伸ばして突き上げても、掴みたいものは何も掴めやしない、そんな世界で。
唯一お互いに手を取り合って笑い合える存在を、手放せはしない。
◇
“ ごめん。 ”
たった一言のメールを送信するのに、一時間もかける男がいるだろうか。
いたとしても、せめてもう少しマシな文章を考えて、何か一言でも付け足すはずだ。
返信が来なくてもおかしくはないな。
そう思っていたのに、伏せた携帯電話は思いの外すぐにメールの受信を知らせた。
“ 悩んでこの一言なら怒るけど、どういうこと? ”
顔文字も絵文字もないのはいつものこと。
いつも通りだと思いたい。距離にしてみれば二駅先の彼女が、どんな顔と想いでいるのかはわからないけれど。
“ 怒っていいから、会いたい ”
“ わたしは会いたくない ”
今度はたいして悩まずに返信したのに、それに対する返事があまりに衝撃的過ぎて、思わず手から携帯電話を落とした。
ガコン、とフローリングの床に叩きつけられた音がしたけれど、それを拾い上げることさえ出来ない。