[短篇集]きみが忘れたむらさきへ。

無力飛行



空を飛べない僕たちは、あの青に触れる方法を知らない。


焦がれても焦がれても、どれほどこの手を伸ばして突き上げても、掴みたいものは何も掴めやしない、そんな世界で。

唯一お互いに手を取り合って笑い合える存在を、手放せはしない。





“ ごめん。 ”


たった一言のメールを送信するのに、一時間もかける男がいるだろうか。

いたとしても、せめてもう少しマシな文章を考えて、何か一言でも付け足すはずだ。


返信が来なくてもおかしくはないな。

そう思っていたのに、伏せた携帯電話は思いの外すぐにメールの受信を知らせた。


“ 悩んでこの一言なら怒るけど、どういうこと? ”


顔文字も絵文字もないのはいつものこと。

いつも通りだと思いたい。距離にしてみれば二駅先の彼女が、どんな顔と想いでいるのかはわからないけれど。


“ 怒っていいから、会いたい ”


“ わたしは会いたくない ”


今度はたいして悩まずに返信したのに、それに対する返事があまりに衝撃的過ぎて、思わず手から携帯電話を落とした。

ガコン、とフローリングの床に叩きつけられた音がしたけれど、それを拾い上げることさえ出来ない。


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