[短篇集]きみが忘れたむらさきへ。


「わたしね、一目惚れしたんだよね」


「…あ、そう」


「信じてないでしょ」


何もおかしくないのに、くすくすと笑いながら、彼女の手が僕の頬に触れる。


「初めて見た時は、こわかったけど、でもこの傷があったから印象に残ってた」


ずっと前に、ケロイドを勲章だとか、綺麗だとか、訳の分からないことを言われたことならあるけれど、傷が印象的で記憶に残ってたなんてはっきり言われたのはこれが初めてだ。

そりゃあ、いい意味でも悪い意味でもなく、ただ目につくという意味で多少他の人よりは記憶されやすいだろうけれど。


「それ一目惚れっていうのか?」


「違うかも。忘れられなかったのは本当だけど」


両手で頬を包み込まれて、真っ直ぐに見上げられる。


「貴方も聞かせてくれる?」


ずっと隠していたことを

ずっと、言わずにいたことを


これから、きみと。



【無力飛行】
―夢で終わらないように
きみと、ずっと―


(20170908)


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