[短篇集]きみが忘れたむらさきへ。
果実、というとフルーツを浮かべる人が多いと思うけれど、私はテーブルの上にポツリと佇むそれを見て、収入とかそういう意味の方を感じていた。
形容しがたい色に変色した林檎の下部は、テーブルと同化するように境目から腐敗し、けれど溶け合うことは出来ずに流れていく。
酸っぱいような、思わず顔を顰めてしまう独特な香りが、ドアを開けているとはいえ壁一枚隔てた寝室まで届いている。
いい加減に、あの腐って変色変形した林檎を処分しなければいけない。
何時頃に買ったものだったか、食べる為に買ったものだったのか、そうではなかったのか、それすらわからない。
もしかしたら、もうテーブルにまで侵食して、ライトオークの色を濃く変えてしまっているかもしれない。
そうだとしたら、面倒だな、と思う。
テーブルクロスでも敷けばいいけれど、それも面倒だ。どうせ、内装を気にするほど家に固執してはいない。目に鼻に不快な香りですら、今は受け入れてしまっているのだから。