[短篇集]きみが忘れたむらさきへ。
「終わりだな。もう、やめよう」
ガツン、と鈍器か何かで頭を殴られたような感覚に襲われる。
感覚だけじゃない、確かに頭が痛む。
亀裂を走らせ、ヒビを割り、脳内に痛みを伴う刺激を直接注ぎ込まれた様な。
私が口を開くよりも前に、彼がベッド脇に置いてあったリモコンを手に取って、照明をつけた。
開ける視界、目に飛び込む光。
咄嗟にかたく目を閉じると、筋張っていて汗ばんだ手が優しく瞼を押し上げる。
薄らと開いた瞳の先に、睫毛に被さった彼の顔が見えて、ほっとした。
何だか、明るい所で彼を見るのは久し振りな気がする。
いつもこそこそと隠れるようにしか2人の時間を作れないから、私達は暗い中で身を寄せ合うしかなかった。
暗いのは嫌いだけれど、彼に触れられているとどうでもよくなる。
満たされていると、実感出来るから。