[短篇集]きみが忘れたむらさきへ。
「だったら……少し、困るなぁ」
「どうして?」
「だって、それってわたしがもうすぐあなたの世界を壊してしまうってことでしょう?」
朱色に染まる君の横顔は青白い。
それは、もうじき君が命の灯火をかき消そうとしていることを言外に物語っていた。
「置いていくのも辛いんだよ」
わかってた、わかってる。
置いていくのも、置いていかれるのも辛いから、君の手を引いてここへ来た。
君を想い続ける僕の心が一番辛いことは、ひた隠しにして、ただ君といたいことを伝えたかった。
「だいじょうぶ。私がいなくても、明日はくるよ」
骨が出っ張って筋の浮き出た小さな手を僕の頬に伸ばす君は、笑っていた。