[短篇集]きみが忘れたむらさきへ。
たとえば、今この瞬間に君が面影さえも残さずに僕の前から消えてしまったとして。
僕だけがここに取り残されてしまったとしたら。
君がいなくても、僕は自分の足で立って、空気を吸い込んで、息を吐いて、自分が生きていることを証明するだろう。
きっと、僕は何も変わらない。
それでも……
「君が居て、僕の明日が見える」
朝起きて、一番に瞳に映るのは君がいい。
開口一番、乾いた舌の根に乗せるのは君の名前であるといい。
伸ばした腕の先に君がいて、鼓動が重なって。
今日を幸せだと感じられる一瞬を抱きしめて。
そんな日々は、君が居て成り立つのに。
君は、奪われて去って行ってしまう。
僕らの生きてきた時間と、これからの僕の時間へと。