[短篇集]きみが忘れたむらさきへ。


君がいなくても成り立つ世界なら、僕は要らない。


海の藻屑になって、遥か彼方宇宙の塵になって、それで君といられるのなら、身体が人間の形を模していなくても構わない。


そんな、現実離れした願いに縋ってしまうほど、僕には君しかいない。

だから、生きていて。そばにいて。


「ごめんね。あなたにばかり、背負わせて」


愛の言葉を知らずに。

胸に巣食う想いの欠片を吐出させる術を知らずに。

僕らは、生きている、から。


「あなたの真ん中にいられるのなら、わたしはずっと幸せだね」


綺麗な涙を流しながら笑う君を、瞼の裏に焼き付けて、零れ落ちる雫をそのままに、君に手を伸ばす。


君の胸に触れた手のひらに伝わる鼓動が、明日、途切れてしまうのだとしても。

君に触れた一瞬をずっと覚えてる。


僕は、君の瞳に映る自分の情けない顔をかき消すように、その額に唇を触れさせた。



(壊れてしまえばいいと思っていた。君がいない世界なんて)

(20171024)


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