[短篇集]きみが忘れたむらさきへ。


これから、もっともっと笑って、大切な人のそばで生きていくきみへ。

伝えたいことなんてひとこともない。

残したいものなんてひとつもない。


だけれど、黙って僕が出ていったあと、ひとりで帰宅をしたきみが、ひとりで涙を流すことがないように。

さよならだけは、言わせて。


金曜日の夜、日付が変わる間際。

きみは今、泣いているだろうか。

それとも、笑ってる?

どちらにしても、これから泣かせてしまうのだろうけれど。


『さよなら』きみへ。


送信完了の文字は、滲んでいた。


(きみの優しさが、きみを笑わせる日まで)


< 94 / 112 >

この作品をシェア

pagetop