甘党バレンタイン


「え?」

僕から…キス?


「ほら、夏樹とキスする時っていつも俺からのじゃん。
夏樹からもして欲しいかなーって」

「え…あ、そういえば……」


確かにキスより先に進みたい、なんか言ってたけど、僕からしたことなんて1度も無かった……。



「わ、分かった」

そう言って僕は立ち上がり、拓実の隣に座って向かい合う。


「す、するよ?」

「うん」


顔を近づけるが、ペタンっと床に座っている上に、座る位置が遠すぎて届かない。
それを見ても拓実は顔を寄せてくれない。


「た、拓実……。ちょっと下、向いて…」
「えー?
夏樹から、キス、でしょ?
だからそこも夏樹が頑張らないと」

まじかー……


俺はさらに拓実の方に寄る。

首を伸ばすと体も当たりそう。
ふわっと拓実の香りがして心臓が高鳴る。
このうるさい心臓の音が拓実に届いてしまいそうだ。


……もうちょっとで届きそうなんだけど…


なんだけど、身長差でもうちょっとの所で届かない。

膝立ちすれば届くだろうけど、何となく気が引けるのは、やっぱりキスをする勇気が無いからだろうか。


拓実は拓実で、相変わらず正面に向いてキスさせようともしない。
目も開きっぱなしだ。


「……拓実、せめて目は閉じて」

「えー。嫌。夏樹のキス顔見たいし」

「き、キス顔って……」

「ほらほらー。早くー」


……あーもう!


僕は膝立ちをして、ぐっと拓実の頭を両手で押さえ、顔を近づける。
拓実の黒髪がさらっと指をすり抜け、先程より強く拓実の香りが鼻腔をくすぐる。

ぐんっと近くなった拓実との距離で、心臓は爆発しそうなくらい波打つ。

拓実はやっぱり目を閉じてくれないから、僕がぎゅっと目を閉じる。


そして、唇にそっと触れる。




「……っはぁ!」

あー、本当に心臓の音がうるさい。
絶対、今顔真っ赤だ……。


「どう、拓実?が、がんばったよ……?」

そう言って拓実の頭から手を離そうとすると、ぱっとその手が掴まれる。


「だめだ、短い。全然足りねぇ」


え?っと聞こうとすると、声を発する前に俺の手から拓実の手が離れ、代わりに僕の頭の両側を、僕がしてるように押さえる。

「逃げんなよ?」

「え────んッ!」

そうして僕の口は再び塞がれた。





が、すぐ離れる。



「あれ?拓実、それだけでいいの?」

「それだけいいの?って随分余裕なようで」

「よ、余裕とかない!
……けど、足りないって言った割に早いなって………」


本当に触れるだけだった。
期待してたのかも。
ちょっと残念に感じた。



「じゃあ、キスする時に口閉じすぎ」

「?」

よく分からず首をかしげると、だーかーらーっと拓実がまた顔を近づける。

「口、ちょっと開けろ」

そう言って僕の唇を舌でなぞった。


「ほら、力抜いて」

拓実の言う通り、口の力を抜くと、ぬるっと舌が入ってくる。

そのまま僕の口の中の唾液と一緒に舌が絡めとられる。

僕ら以外誰も居ないこの部屋にぴちゃぴちゃと小さな音と吐息だけがまじる。


やばい……頭がほわほわしてきた。
慣れていないせいかうまく息ができない。
でも気持ちよくて拓実の頭に触れる手に力が入らない。
これって僕も舌、動かした方がいいのかな……。


そんなことを考えていると、僕の頭を押さえていた拓実の手は、僕の耳をなぞり始める。
熱く火照った耳には、冷たい拓実の手は気持ちいいが、それ以外の気持ちよさも感じる。

手は力が完全に入らなくなって、拓実の肩に乗せている状態になっている。
膝もがくがくになって、また床にぺたんっと座ってしまう。



しばらくすると、そっと拓実の唇が離れる。


「……ごめん、強引に…」

「う、ううん気にしないで」


そうは言ったものの……
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