甘党バレンタイン


どうしよう………
完全に反応してしまった。



僕はセーターを下に思いっきり引っ張って股を閉じて隠す。
これからどうするかという問いかけが頭をぐるぐると駆け巡る。


トイレに行く?
いや、タイミング不自然だろ。

もう帰る?
嫌だ。もっと拓実といたい。

……どうしたらいいんだ…。


「……夏樹?」

俯いてずっと無言だったから心配したのか拓実が顔を覗き込んでくる。

近い上に、きらきらと光ってとても綺麗な拓実の瞳がこちらを見つめる。


あー、顔に穴あきそう。


……じゃなくて!!
どうし…よう。

気にすれば気にするほど悪化してる気がする。



ここはやっぱりトイレに行くしかないか!

「た、拓実、ごめん。ちょっとトイレ……」

「……夏樹」

「な、なに?」

「もしかして、たっちゃった?」

拓実は僕の手の甲を指さして言う。


「え、ち、違っ!」

「夏樹、嘘つくの下手すぎだよ。
ほら、手、離して」


拓実はセーターを握りしめていた俺の手に触れる。
いやいやっと抵抗する僕の力はあっけなく負け、手は拓実にのけられる。



……は、はずかしい。


僕はもう自分がこうなっているのも見たくなくて、首を後ろに向け目をそらす。

「夏樹」

「何」

いきなり真面目に名前を呼ばれて、ぶっきらぼうに返してしまう。


何、言われるのかな。
キスだけでこんなになるなんて気持ち悪いって?
さすがDTだって?
引くって?



……嫌われるのだけはやだ────





「……うれしい」


「ぅえ?」

予想もしてなかった言葉で変な声が出る。


「何で!?」

「だって俺のキスでここまでなったって事だろ?」

「う、うん」

「俺、夏樹には恋人だって思ってもらえてないと思ってたんだ。
会っても普通の友達みたいに話すだけ。
家に来ても普通の友達みたいにゲームするだけ。
キスは何回かしたけど、すぐおしまい。
……本当はそこまで好きだって思ってくれてないのかと思った」

「こっちだって……っ!!」


拓実の長い言葉を最後まで聞くと、今まで言いたかった事が溢れて、思わず叫んだ。

でも、伝えたいことが多すぎて、こっちだって、の後の言葉が出てこない。


その代わりなぜだか目が潤んで、涙が出てきた。



「……こっちだって…そこまで恋人として意識してくれてないのかと思ってたし…。
もともと拓実は女の子と付き合ってたから、僕とキスとか…嫌、なんだと思ってた」


嗚咽混じりに言い終わると、涙が落ちてシミを作る。

僕の言葉を黙って聞いていた拓実がふっと笑い、俺の涙を袖で拭う。


「ほら、泣くなよ。
……ははっ、俺らって見えないところですれ違ってたんだな」

「うん」

「でも、さ。もうお互い好きだってことは分かったことだし、いい、よな?」

「え?」


拓実の大きな手で後頭部を押され、拓実との距離が縮まったと思えば、僕の唇はまた塞がれた。


「ほら、夏樹、口」

「ふぁ、うん」


小さく口を開くとさっきの感触。


……やっぱり慣れないな……

でも……


僕からも小さく動かす。


拓実は驚いたように僕の頭に触れている手を動かしたが、すぐにもちなおしてさらに強くする。




長い………
けど、コツはつかめたためさっきよりかは楽だ。



なんて思っていると、



「んん!?」


お腹に感じる冷たい手の感触。

僕はくすぐったくて身をよじらせる。
それでも拓実は手を離さず、口も離さない。

拓実は僕のお腹に置いた手をすすすっと上に上げていき…

「んぅ!」

小さな突起をつつく。


その時、拓実が笑ったように感じだのは気のせいだろうか。

とにかく、拓実の手は止まらない。


「夏樹、ここ、いい?」
「ん、うん…、んん!」

僕は声とかいろいろを耐えるために、ぎゅっと拓実を抱きしめる。



「た、たくみ…もう、もうむり!」

「どこが?」

「うぐっ」


言えない。
言えるわけない。


「……たとえば、ここ、とか?」

そう言って、先程から湿って気持ち悪かったところを指でなぞる。



「いやっ、ちがっ……やめ……て」

なれない感覚が全身を駆け巡る。


「やめて、いいの?」

「ん……んん…」



待ち望んでいた事だけど、いざこうなると怖くなってくる。

本心はどうなんだろう。
よく分からない。

体は疼いて早く触れてくれることを望んでいるのに、僕は怖くて怖くて怖い。



そういう体の関係を持つことも、

……やっぱり女の方がいいって実感されるのも。




「どう?やめて欲しい?」

「ん……や…やめ……」



て欲しいの?
て欲しくないの?


キスでどろどろになった脳をしきりに回す。



怖い。
拓実に嫌われるのが。
拓実に絶望されるのが。






………違う。





僕が今までの関係でいいとか思ってるから。

僕がこういうのは初めてで緊張してるから。





そうでしょ?僕の本心。



だったら答えは決まってる。





「こ、ここじゃっ、やだっ!
は、始めて…んぅっ…は、ちゃんと…したい」


「うん。分かった」



拓実の手を強く握って言うと、拓実は僕の大好きな笑顔で頷き、手を離した。

拓実はこの声を待ってたのかもしれないな。
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