甘党バレンタイン



それから僕らは、拓実の部屋の拓実のベッドで体を重ねた。

ずっと望んでいたことだったけど、やっぱり理想通りに上手くはいかなかった。

それに今までいっぱいすれ違って遠回りしてた事も分かった。


けれど、凄く心が満たされて、凄く気持ちよかった。



そして今、拓実のベッドで2人、背中を合わせて寝ている。





………うん。寝なきゃだよね。


だけど、1日中寝ていた僕は妙に目が冴えて全然寝れない。
しかも、背中に感じる拓実の体温でさらに落ち着かない。


無言になってから10分くらい経ったかな……。
分からないけど、触れている拓実の背中は一定のペースで上下しているから、もう寝たのかもしれない。



「ねぇ、拓実。寝たの?」

「……起きてる」

「そか」

起きてたのか。


「眠れないのか?」

「うん、昼間暇でずっと寝てたから」

「そういえば、俺を家に呼ぶ予定だったんだっけ?」

「うん。本当は1ヶ月以上前から計画してた」

「……ごめんな」

「いいよ、結果的にこうやって拓実と一緒にいられるんだから」

「ありがとな」

ちょっとしゅんっとした声で拓実が言うから、ちょっと焦る。


「何言ってんだよ。僕のために料理まで作ってくれたのは拓実じゃん。時間がかかったで……」

って言ってから、違和感が頭を過ぎる。

「どうかした?」

「い、いや…」

何だろこの違和感。
僕のために時間をかけて料理を作っていた。
時間がかかった。
時間が………


「あ!」

「思い出した?」

「うん。拓実が用事があるって言ってたのって……」

「うん、これを準備するためだよ」


………やっぱり

「なんで言ってくれなかったの!?」

「んー、夏樹が家に遊びに来るように言わなかったのと同じ理由かな」

「あ」

そっか、拓実も何だかんだでこういうの期待してたんだ。


「僕たち…、すれ違ってばっかだね」

「ああ。もっとお互いを知らないとな。
って2年目に言う言葉じゃないか」

「でも、もっと拓実と話したい……って言うのじゃ変かな?」

「それは…変じゃないな!むしろ話したい」

「じゃあ、さ。トークの返信返してよ!」

「ん?」



朝、送ったらのが未読だったのは、やっぱり見てなかったのか。


「拓実に返信したのに、その返信が来なかったから」

「あ、あー……。寝坊してサプライズの用意が出来てなくて焦ってたから」

焦ってたって………。


拓実って何でも完璧そうに見えても、寝坊はする時あるし、焦って周りにも気づかないし、それにいつも思うけど、人の涙を拭う時は袖だし。


でもそれを知ってるのは僕だけだし。



そう思うと凄くおかしくて、

「あっははははははっ」

「ど、どうした夏樹!?」


笑いが止まらない。



「やっぱり、話し合うのって大事だね」

「そうだな。
……じゃあ俺、これから学校で話しかけてくる女子、無視するわ」

「は?」

「バレンタインも受け取らないわ」

「は?」

「告白だって全部無視するわ」

「は?」



何言ってんの。
拓実はどうしようもないほど優しくて、僕の気持ちを優先しつつも、女子を傷つけないように気を使ってたのに。


「俺、さ。大勢の女子を傷つけるより、たった1人の夏樹を傷つけるほうが嫌だ。
それに、夏樹との時間を誰にも邪魔されたくないし」

「……いいの?」

「いいに決まってるだろ。
ほら、明日は月曜だぞ?寝ないとしんどいぞ?」

「そうだね」



とは言ったものの、寝ようと目を閉じても、やっぱり目が冴えて全く眠れる気配がしない。

布団をかぶり直して、寝ようと必死に羊を数えていると、後ろで拓実が布団をごそごそと動かす。


どうしたの?っと聞こうとすると、後ろからぎゅっと抱きしめられる。


「あったかいと眠れる?」


……はぁ。
拓実はどれほど僕を好きにさせたら気が済むんだろう。


「……寝れる」

落ち着かなかったはずの拓実の体温が、今は心地よくて、とくとくと感じる小さな鼓動を聞きながら、僕は眠りに落ちていった。



おやすみっと甘い甘い拓実の声が耳元で聞こえた気がした。



……fin.
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