甘党バレンタイン
甘党男子の特別な日
2016/02/14(2年目)
ちゅんっちゅんっと、窓のむこうから雀のなく声が聞こえる。
のではなく、スマホから雀のなく声が流されている。
狭くシンプルな部屋のベッドの上にいる僕、夏樹は開かない目を手で抑えながら、もう片手でスマホを探す。
手の感覚だけでスマホのアラームを止めると、雀の鳴き声も止まる。
「ふぁああぅー。9時…か。
それにしても、誰……?僕のアラームを雀にした人」
そんな苛立ち混じりの問いかけしても誰も答えない。
当たり前だけど。
きっと妹のいたずらだな。
帰ってきたら叱らないと!
……と思ったけど、スマホの画面に映る今日の日付で思わず頬が緩む。
今日はバレンタインデー。
たくさんの甘いものが食べられる!
スーパーのバレンタイン用チョコが明日から安売りを始める!
これはモテない男でも、甘党男子にとっては重要なイベントなのだ!!
……なんだけど、2年前からそれだけじゃなくなった。
そう、ちょうど今日から2年前、僕と拓実は恋人同士になったのだ。
男同士…だけど、普通にうまくやっている。
友達関係みたいなものだけど。
うん…、そう。
本当に友達みたいな。
き、キスだって、軽いのをたまにしかしない…し?
もっとして欲しい…って思うけど、がっつきすぎな気がして恥ずかしい。
周りに男同士で恋愛なんてしてる人がいないから、何が“普通”かも分からない。
しかも拓実はモテるせいで、まわりの女子は拓実に告白するわ触れるわで気が気でない。
僕のこと、ちゃんと恋人だって思ってるのかな。
まあ、そんな疑問はあっても、拓実のことは大好きなんだけどね!
なんてことを考えながら、ベッドの上でごろごろしていたが、このままでは二度寝をしてしまいそうなので起き上がる。
さて、今日は…
妹は彼氏さんとデート。
親はバレンタインだから!と浮かれてどこかに出かけた。
つまり、家に1人っきり。
つまり、拓実を家によべる!
いつもお互いの家のリビングに親がいる状態だったから、家に2人っきりは初めてだ。
……ふ、深い意味はないよっ!?
ただ、ちょっと楽しみだ。
楽しみすぎて、サプライズにしたくて、今の今まで拓実には内緒にしている。
さて、連絡するか。
スマホで拓実とのトーク画面を開き文字を打つ。
なつき『今日、家に誰もいないんだけど、僕の家、こない?』
緊張しすぎて何度も変換ミスをしてしまい、無駄に時間をかけてしまった。
「えへへー。早く見てくれないかな」
2分くらいたって既読がつく。
ん?なんで既読ついた瞬間が分かったって?
早く読んで欲しすぎて、ずっと画面眺めてたからな。
っと、すぐにこっちの既読がついたら不思議がられるかもしれないから、一旦画面閉じよう!
そう思ってバックボタンを押した瞬間に、ぴろんっと通知が届く。
なんて返ってきてるのかなー、なんてわくわくで画面を開くと、
拓実『ごめん!今日用事あるから!!』
え…
帰ってきた言葉が信じられなくて、しばらくその文字を見つめる。
「う……そ…」
一気に僕の中の予定と期待が崩れる。
どうしよう……
これ…、かなり………
「つらいかも」
やばい涙目になってきた…。
滲む視界の中で文字を打つ。
なつき『そっか、用事があるなら仕方ないよな』
その返事は、いくら待っても既読が付かなかった。