狂気の王と永遠の愛(接吻)を~イベント編~
 ――やがて夜は明けて……

「…………」

 朝日が昇る早朝、薄く目を開いた悠久の王。
 彼の視線はすぐに腕の中で眠る少女へと注がれ、枕を手繰り寄せてから腕を引き抜いた。

(ほとんど眠れなかったようだな……)

 いまでこそ穏やかな寝息を立てているが明らかに疲労の残る目元。それは朝日に似つかわしくないほど陰り、一日を難なく過ごすには無理があるように見える。隣へ横になったまま頬杖をついてしばらくアオイの寝顔を見つめていたキュリオは、時折うなされるように小さく声をもらす少女の額へ宥(なだ)めるような口付けを落としながらも、彼の親指はアオイの唇を愛おしそうになぞる。
 
(……そろそろ時間か)

 名残惜しそうにアオイの髪へ唇を押し当ててから湯殿へ向かい、身支度を整えて部屋へ戻るもアオイの顔色はやはり冴えない。

 静かに部屋をでた先で深く一礼した女官が柔和な表情で王を迎えた。

「おはようございますキュリオ様」

「あぁ、おはよう」

 さらに下の階へ移動すると、数人の女官や侍女が左右に並び恭しく頭を下げる。
 その中心を颯爽と歩く王が向かった先は執務室だ。

「……キュリオ様、朝食は執務室へお運びいたしますか?」

 後ろをついてきた女官が心配そうに声をかけてくるのも、王立学園の副担任としてアランを演じている今のキュリオは王と教師の職を両立させているため超多忙を極めていたからだ。

「あぁ、頼む。
……時間が来てもアオイは起こさなくていい。今日はゆっくり眠らせてやってくれ」

「……畏まりました、姫様の御加減が悪いのでしたら何かお持ち致しましょうか、……?」

 王の言葉にオロオロと狼狽える女官に"そうだな……"と言いかけて。

「様子を見ながら食事を運ぶくらいで大丈夫だろう。あまりに具合が悪いようならガーラントを呼べ」

「……承知致しました。直ちに侍女を待機させますわ」

 もちろんこの話は世話係であるカイやアレスの耳にも入り、居ても立ってもいられない若い剣士は大急ぎでキュリオの部屋の前までやってきた。

「……はぁっはぁっ……アオイ姫様っ……体調が悪いって?」

 荒い呼吸を整えながら部屋の前で待機していた侍女へ姫君の様子を伺う。

「えぇ、顔色もお悪くて……姫様の御様子を見ながら食事を運ぶようにとキュリオ様から仰せつかっております」

「そっか……」

(アオイ姫様は頑張り過ぎなんだよな……)





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