狂気の王と永遠の愛(接吻)を~イベント編~

違和感

 キュリオが外出してからしばらくの後――。

「…………、っ……」

 急激な喉の渇きに襲われたアオイはゆっくり目を開いた。

「…………」

(お水……)

 さらさらと流れる心地良い風がカーテンを揺らし、その中に混じった緑の香りがいつもより強く漂っている気がするが、窓の外はまだ薄暗いままだった。

「…………?」

 水の入ったグラスを傾けながらカーテンを覗くと暗がりのなかで数人の侍女が花の手入れをしている様子が伺えた。

(……どうしたんだろう……こんな早朝に……)

(……最近学校に通っているせいであまり見なかった光景……)

 城からあまり出ることなく過ごしていた幼少期、ゆっくりめの朝食を終えてキュリオと庭を散歩しているとよく目にした映像がそこに広がっていた。

「……いま、何時……?」

 よほどの客人が来る予定がない限り、城に従事する者たちの時間が早まることはないとアオイはよく知っている。
 一抹の不安を抱え、むやみに室内を歩き回る。

「そうだ……お父様、お仕事を済ませたら戻ってくるって……」

(……お仕事? なんの……?)

 寝間着のままパタパタと扉へ駆け寄り、廊下へ飛び出すと……

「……姫様っ……! そんなにお慌てになって、いかがなさいました?」

"熱があるのではっ……"と心配した侍女の白い手がこちらに伸びてくる。

「ううんっ……そうじゃないの、寝坊したんじゃないかって焦っちゃって……」

「まぁ……体調のお悪いときはそんなことお気になさらずにお休みになってくださいませ」

「…………?」

(体調が悪いって……私? そんな顔してる?)

 目を丸くしているアオイを見て、大事はないと判断した彼女はクスリと笑みを零した。

「軽めの朝食をお持ち致しますので、キュリオ様のお部屋でお待ちくださいませ」

「……っお父様はどこ? 早朝に顔を合わせたきりお戻りになっていないみたいだけど……」

「お急ぎの御用でございますか? 
姫様のお呼びだしであればお受けするようにと仰せつかっておりますので、直ぐにでも……」

(私の考えすぎなのかな、やっぱりお父様はお仕事中なんだ……)

「ううん、……なんでもない……」

 こんなことで邪魔してはいけないと大人しくキュリオの部屋へ戻るアオイ。

(学校へ行くときには声かけてくれる、……よね?)

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