狂気の王と永遠の愛(接吻)を~イベント編~

キュリオが求めるもの

「この空間、って……な、なんのご冗談かはわかりませんが……、そんなの無理に決まって……」

「それが嫌なら拒むな。お前が隔たりを持つようなら私は容赦しない」

「……っ!」

 腕を引き寄せられ、前に崩れた体をキュリオに抱きとめられる。
 有無を言わさない強い口調にも関わらず、背に回された腕はいつものように優しくアオイを包み込んでいる。

「…………」

(私が同じ気持ちだったら……こんなに苦しまずにすむのかな……
私が……お父様の御心に寄り添わないから……)

 諦めたように瞼を閉じたアオイだが、己の心の声にハッと目を見開く。

”……お父様、お願いです。お城の中でワガママはもう言いません……だから、それ以外のところでは……もう少し自由にさせて頂けませんか?”

(わたし、自分が譲歩できることばかり提案して……お願いを叶えてもらうことばかり考えてた……)

 しかもそれだけではない。
 ワガママを言わないと言った城の中でも反発し、キュリオを避けるように部屋に閉じこもってしまったのだから身も蓋もない。

(……大切なのはお父様の御心に寄り添うこと……)

 呪文のように唱えた言葉を噛みしめていると体から力が抜けていくのがわかる。そして親友のミキが言っていた”反抗期”の意味が少しわかった気がする。

(お父様が変わってしまったんじゃない。変わってしまったのは私なんだ……)

 そう考えるとキュリオが譲歩してくれている部分が多々あることに気づく。学園への入学から始まり、理由のある帰宅時間の遅れもそうだ。そればかりか王としての激務の中、大部分の時間を教師として費やしてしまっているのだから、むしろ拘束されているのはキュリオの方なのかもしれない。

「……私がお父様に出来ることはありますか?」

 キュリオが自分に費やす時間を少しでも返したくて。
 時間を戻すことは出来なくとも、その間にやりたかったことを手伝うことは可能なはずだ。

「なにを考えている」

 諦めるにしても、急に手のひらを返すような発言をしたアオイに疑いの眼差しが向けられる。 あれだけ反発していたのだから裏があると思われても仕方なく、その疑惑を晴らすには態度で示していかなければと深く呼吸を繰り返す。

「……ずっと自分のことばかりでごめんなさい。お父様を苦しめていたのは私なのに……」

「…………」

 キュリオは何も言わない。
 その代わりにアオイの頬へ手を添え、視線を合わせるよう上を向かされる。まるでその真意を図るように――。

「私の愛はお前が想像するものと少し違う」

「……?」

「私が求めるのはこの愛だ」

 アオイの理解が追いつく前にキュリオの顔が近づき、鼻先が触れたと思うと……唇に柔らかな感触が押し当てられる。

「…………」

 状況が飲み込めず一度は目をパチクリしたものの、場を理解したアオイは動揺のあまりキュリオの胸を強く押し返す。

「……お父さ、っ……んっ」

 腕を掴まれ、いとも容易く組み敷かれてしまったアオイは呼吸ごと飲み込まれるように唇を奪われ続ける。そしてもがけばもがくほどに噛み付くような刺激の強い接吻を浴びせられ、息苦しさから苦痛の呻き声を漏らした――。
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