狂気の王と永遠の愛(接吻)を~イベント編~
交差する運命
――この方と幸せになってはいけない――……
眠りに落ちたアオイは不思議な声に意識を引き戻された。
(……誰?)
アオイはふわふわとした実感のない足取りで暗闇のなかを彷徨うように歩く。
『……覚悟はできたか?』
『…………』
誰かの話声が聞こえる。
振り返ったアオイの目の前には、先ほどまで何もなかった闇が開け、長椅子に座りながら満天の星空を見上げる男女の後ろ姿があった。
男性の方はかなり大柄のようで、女性の頭よりもひとつ以上抜きに出ており、癖毛なのか短髪の髪が炎のように猛々しいのがとても印象的だった。
『仙水はお前がいなくても大丈夫だ。気になるってならたまに様子を見に来ればいい。……永遠の別れってことでもないだろう?』
『……、…………』
聞こえるのは低音な男性の声ばかりで、女性の声が小さいのか聞き取ることができない。
(人の名前が出てきたみたい……センスイ?)
アオイはどこかで聞き覚えのある名前に頭を捻るが、己の生活を彩る人物の中にそのような名の知り合いはいないと断念した。
『……約束? お前、それってもしかして――……』
そう言葉を発したきり、口を噤んだ男は何やら考えを巡らせているようだった。
女性の方へ目を向けると、天を仰いでいたはずの彼女は別の方角を見つめている。
(あの人、なにを見てるんだろう……)
視線を追って行った先には、女性と見紛うほどに美しい水色の髪の男性が夜空を見上げ立っていた。彼が纏う銀の縁取りが上品なローブは、まるで王の衣のように神々しい輝きを放っている。
(……横顔しか見えないけど綺麗な人……王様みたい……、じゃなくて……あの方は王様?)
(このひとたちの間柄って……?)
――この方と幸せになってはいけない――……
(あの声はきっと、この女性のもの……じゃあ”この方”が示すのは誰?)
疑問ばかりが残るのもしょうがない。目の前にいる三人のうち、聞こえるのは短髪の大柄な男性の会話ばかりだからだ。
盗み聞きはいけないとわかっていながらも、そういう場面に出くわしてしまったからには最後まで見届けたいと思うのは人間の性かもしれない。
アオイは邪魔しないようにと心がけながら、女の人の背後へと少しだけ歩みを進める。
(三角関係だったらどうしよう……。この女性は誰を選ぶの?)
何よりも自身を戒めるような先ほどの言葉が気になる。
と、その時――
月が雲に隠れてしまったのか、再び暗闇に辺りが包まれると……人の気配を背後に感じたアオイは振り返った。
『……そこに誰かいるの?』
『思い出して――……』
アオイの問いかけに声を発したのは先ほどの女性のようだ。彼女は後ろを向いたまま振り返ろうとはしない。
『なにを……? 私たち、初めて会ったよね?』
一歩二歩近づくも、その距離は一定を保ったまま縮まることはない。
しかし、次の瞬間――……
振り返った少女の言葉にアオイは息を飲んだ。
『――あなたは悠久のキュリオ様と幸せになってはいけない――……』
――ドクンッ
『え……』
(……ど、して……お父様のこと…………)
あまりの衝撃に意識が暗転し現実へと引き戻される。再び訪れた闇に汗が吹き出し、居場所を確認しようと瞳を瞬かせた。
「……っはぁ、はっ……はっ……」
さらに止まっていた時間を取り戻すかのように心の臓が激しい鼓動を繰り返し、それに比例した呼吸が荒々しく肩を上下させた。
体が横たわっていることからどうやら眠っていたらしいことがわかる。
「アオイ?」
「……っ!」
優しい声がすぐ傍から聞こえ、アオイは汗に張り付いた髪を梳く美しい手に縋りついた。
「……怖い夢でも見ていたのかい?」
怯えながら己の手に縋りつく姿は幼い頃のアオイそのままだった。
キュリオはその体ごと抱きしめるように顔を寄せながら、きつく目を閉じるアオイの瞼へ口付を落とす。
「アオイ……」
しばらくして落ち着きを取り戻したアオイを宥めるようにキュリオが視線を絡める。
「……おとう、さま……」
「あぁ、ここにいるよ」
虚ろな瞳はまだ悪夢が抜けきっていないのか、かろうじて己の姿を瞳に宿した愛娘を安心させるように何度も頬を撫でた。
「わ、たし……」
「うん?」
何か言いたげな愛らしい唇は震えるように言葉を紡ぐ。
『――私は……貴方様の愛にお応えすることはできません――』
眠りに落ちたアオイは不思議な声に意識を引き戻された。
(……誰?)
アオイはふわふわとした実感のない足取りで暗闇のなかを彷徨うように歩く。
『……覚悟はできたか?』
『…………』
誰かの話声が聞こえる。
振り返ったアオイの目の前には、先ほどまで何もなかった闇が開け、長椅子に座りながら満天の星空を見上げる男女の後ろ姿があった。
男性の方はかなり大柄のようで、女性の頭よりもひとつ以上抜きに出ており、癖毛なのか短髪の髪が炎のように猛々しいのがとても印象的だった。
『仙水はお前がいなくても大丈夫だ。気になるってならたまに様子を見に来ればいい。……永遠の別れってことでもないだろう?』
『……、…………』
聞こえるのは低音な男性の声ばかりで、女性の声が小さいのか聞き取ることができない。
(人の名前が出てきたみたい……センスイ?)
アオイはどこかで聞き覚えのある名前に頭を捻るが、己の生活を彩る人物の中にそのような名の知り合いはいないと断念した。
『……約束? お前、それってもしかして――……』
そう言葉を発したきり、口を噤んだ男は何やら考えを巡らせているようだった。
女性の方へ目を向けると、天を仰いでいたはずの彼女は別の方角を見つめている。
(あの人、なにを見てるんだろう……)
視線を追って行った先には、女性と見紛うほどに美しい水色の髪の男性が夜空を見上げ立っていた。彼が纏う銀の縁取りが上品なローブは、まるで王の衣のように神々しい輝きを放っている。
(……横顔しか見えないけど綺麗な人……王様みたい……、じゃなくて……あの方は王様?)
(このひとたちの間柄って……?)
――この方と幸せになってはいけない――……
(あの声はきっと、この女性のもの……じゃあ”この方”が示すのは誰?)
疑問ばかりが残るのもしょうがない。目の前にいる三人のうち、聞こえるのは短髪の大柄な男性の会話ばかりだからだ。
盗み聞きはいけないとわかっていながらも、そういう場面に出くわしてしまったからには最後まで見届けたいと思うのは人間の性かもしれない。
アオイは邪魔しないようにと心がけながら、女の人の背後へと少しだけ歩みを進める。
(三角関係だったらどうしよう……。この女性は誰を選ぶの?)
何よりも自身を戒めるような先ほどの言葉が気になる。
と、その時――
月が雲に隠れてしまったのか、再び暗闇に辺りが包まれると……人の気配を背後に感じたアオイは振り返った。
『……そこに誰かいるの?』
『思い出して――……』
アオイの問いかけに声を発したのは先ほどの女性のようだ。彼女は後ろを向いたまま振り返ろうとはしない。
『なにを……? 私たち、初めて会ったよね?』
一歩二歩近づくも、その距離は一定を保ったまま縮まることはない。
しかし、次の瞬間――……
振り返った少女の言葉にアオイは息を飲んだ。
『――あなたは悠久のキュリオ様と幸せになってはいけない――……』
――ドクンッ
『え……』
(……ど、して……お父様のこと…………)
あまりの衝撃に意識が暗転し現実へと引き戻される。再び訪れた闇に汗が吹き出し、居場所を確認しようと瞳を瞬かせた。
「……っはぁ、はっ……はっ……」
さらに止まっていた時間を取り戻すかのように心の臓が激しい鼓動を繰り返し、それに比例した呼吸が荒々しく肩を上下させた。
体が横たわっていることからどうやら眠っていたらしいことがわかる。
「アオイ?」
「……っ!」
優しい声がすぐ傍から聞こえ、アオイは汗に張り付いた髪を梳く美しい手に縋りついた。
「……怖い夢でも見ていたのかい?」
怯えながら己の手に縋りつく姿は幼い頃のアオイそのままだった。
キュリオはその体ごと抱きしめるように顔を寄せながら、きつく目を閉じるアオイの瞼へ口付を落とす。
「アオイ……」
しばらくして落ち着きを取り戻したアオイを宥めるようにキュリオが視線を絡める。
「……おとう、さま……」
「あぁ、ここにいるよ」
虚ろな瞳はまだ悪夢が抜けきっていないのか、かろうじて己の姿を瞳に宿した愛娘を安心させるように何度も頬を撫でた。
「わ、たし……」
「うん?」
何か言いたげな愛らしい唇は震えるように言葉を紡ぐ。
『――私は……貴方様の愛にお応えすることはできません――』