狂気の王と永遠の愛(接吻)を~イベント編~
変化し始めた"愛"
こうして城を出たキュリオとアオイ。
対岸は目を凝らしても見えないほどに大きな湖まで馬を走らせると、手入れの行き届いた二人乗りの小舟を水面へ滑らせる。
やがて岸が見えなくなるほど進んだところで#櫂__オール__#を漕いでいたキュリオの手が止まる。
「この辺りがいい」
「……?」
休日の早朝ということもあり、幸いこの舟以外の影も人も見当たらない。
知名度の高いキュリオが外出を面倒に思う理由のひとつはこれだ。執務であればどうということはないが、アオイと共に出かけるにも民の目がある。行く先々で騒がれてしまうのは至極当然で、ふたりでゆっくりできる時間など皆無に等しい。
しかし、そんなキュリオも今は目に見えてリラックスしているのは明らかで、おもむろに体勢を崩した体がアオイの膝の上で横たわる。わずかに加わった重みを感じながら、上から見下げるようなかたちでアオイが目を丸くしている。
「重くはないかい?」
「い、いえ……っ全然!」
全力で否定したアオイに微笑むキュリオの顔が眩しい。
いつもとは真逆の光景にアオイの鼓動はせわしなく早鐘を繰り返す。
(なんでだろう……お父様が愛しくてたまらない)
幸せそうに自分の膝の上で目を閉じるキュリオに触れたくてしょうがないという衝動が全身を駆け抜ける。
(いつもと立場が違うせい? お父様が私に甘えてくださっているから……?)
やがてアオイの手は自然とキュリオの顔を優しく撫ではじめ――
薄く瞳を開いたキュリオもまた、そのぬくもりが離れぬようアオイの手に手を添えて頬ずりしている。
「…………」
(バレンタインデーってすごい……自分の気持ちに気づかされるみたい)
キュリオの陶器のように白い肌を手のひらに感じながら、いつもキュリオが自分にこうしているとき同じ気持ちなのだろうかと考えてみると、とてもくすぐったい。
(……この感情って……?)
友達や従者たちへ向ける"好き"はたくさんあるが、男性を愛したことのないアオイには答えが出せない。しかし、いままでにない熱を持った感情がアオイの胸を甘く疼かせる。
――このとき、父親であるキュリオに向ける愛の形がわずかに変化し、それをなんと呼ぶのかを彼女はわからない。
キュリオが時間をかけて芽生えさせた小さな愛は無事、花を咲かせることが出来るのだろうか?
今はただ、愛しさの中に身を揺蕩う船を邪魔するものは何もない。
だが、ふたりは知らない。
間もなく訪れる荒波が、"終わりのない絶望"であることを――。
対岸は目を凝らしても見えないほどに大きな湖まで馬を走らせると、手入れの行き届いた二人乗りの小舟を水面へ滑らせる。
やがて岸が見えなくなるほど進んだところで#櫂__オール__#を漕いでいたキュリオの手が止まる。
「この辺りがいい」
「……?」
休日の早朝ということもあり、幸いこの舟以外の影も人も見当たらない。
知名度の高いキュリオが外出を面倒に思う理由のひとつはこれだ。執務であればどうということはないが、アオイと共に出かけるにも民の目がある。行く先々で騒がれてしまうのは至極当然で、ふたりでゆっくりできる時間など皆無に等しい。
しかし、そんなキュリオも今は目に見えてリラックスしているのは明らかで、おもむろに体勢を崩した体がアオイの膝の上で横たわる。わずかに加わった重みを感じながら、上から見下げるようなかたちでアオイが目を丸くしている。
「重くはないかい?」
「い、いえ……っ全然!」
全力で否定したアオイに微笑むキュリオの顔が眩しい。
いつもとは真逆の光景にアオイの鼓動はせわしなく早鐘を繰り返す。
(なんでだろう……お父様が愛しくてたまらない)
幸せそうに自分の膝の上で目を閉じるキュリオに触れたくてしょうがないという衝動が全身を駆け抜ける。
(いつもと立場が違うせい? お父様が私に甘えてくださっているから……?)
やがてアオイの手は自然とキュリオの顔を優しく撫ではじめ――
薄く瞳を開いたキュリオもまた、そのぬくもりが離れぬようアオイの手に手を添えて頬ずりしている。
「…………」
(バレンタインデーってすごい……自分の気持ちに気づかされるみたい)
キュリオの陶器のように白い肌を手のひらに感じながら、いつもキュリオが自分にこうしているとき同じ気持ちなのだろうかと考えてみると、とてもくすぐったい。
(……この感情って……?)
友達や従者たちへ向ける"好き"はたくさんあるが、男性を愛したことのないアオイには答えが出せない。しかし、いままでにない熱を持った感情がアオイの胸を甘く疼かせる。
――このとき、父親であるキュリオに向ける愛の形がわずかに変化し、それをなんと呼ぶのかを彼女はわからない。
キュリオが時間をかけて芽生えさせた小さな愛は無事、花を咲かせることが出来るのだろうか?
今はただ、愛しさの中に身を揺蕩う船を邪魔するものは何もない。
だが、ふたりは知らない。
間もなく訪れる荒波が、"終わりのない絶望"であることを――。