アバターの恋
「明日、昼から休みとるから渋谷に約束の買い物に行こうね」

「先生ありがとう。だけどそんなに気を使わなくてもいいよ」

由香は先程と違い遠慮している。

磯山は由香の心の変化を読み取っている。
石井の面会に連れて行かない事に機嫌を損ねたらしい。

「由香ちゃんもうすぐ学校だろ。明日しか行ける日がないから。行こうよ」

由香は渋々「うん」と返事をした。

「先生……」

「何?」

「先生。服より。刑事さんに会いたいよ」

由香は高校一年生、思春期真っ盛りで心は荒波のように揺れている。

精神科医の磯山は困った。どうすればいい。あまり石井に由香を会わせる訳には行かない。いつかは二人の仲がバレるし、アバターウイルスが完全にこの世から消えた訳ではない石井の周辺にはいつも危険が付きまとう。

「一回、弁護士さんと相談するね」

「うん!」
由香は大きく頷いた。
磯山は何とかこの場をしのいだ。
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