傷つけたくない 抱きしめたい







「じゃあ、とりあえずみんな自由にアイディア出していこう」


教壇に立った嵐くんが、クラスメイトたちに向かって言うと、みんなは周囲と話し合いを始めて、ざわざわと教室が騒がしくなった。


清崎高校では、夏休みが明けてすぐに文化祭が開催される。

今は、その文化祭でのクラスの出し物を決めるホームルームの時間だ。


「なんでもいいから、思いついたらとりあえず教えて。ブレインストーミングだから、とにかくたくさん案を出してほしいから」


嵐くんの言葉に、何人かの活発な子たちが手を挙げて発言し始めた。


「定番で、お化け屋敷とか?」

「でもさあ、それだとどこかのクラスとかぶりそうじゃない?」

「コスプレ喫茶!」

「準備が大変そうだなあ」

「縁日は?」

「怖いのやりたい。学校の怪談とか七不思議みたいな」

「劇やってみたいな」

「バカッコイイ動画作って流すとか!」


みんなが次々に出すアイディアを、書記の子が黒板に書いていく。

二十近くの案が出揃ったところで、教室の後ろで黙って見ていた秋田先生が前に出てきた。


「たくさんアイディア出してくれたけど、先生から一つ言っといていいか?」


嵐くんが「何ですか?」と返すと、先生が白いチョークを手に取り、黒板に『文化祭』と大きく書いた。



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