傷つけたくない 抱きしめたい
「みんなは忘れがちだけど、『文化祭』っていうのは、ただのお祭りじゃなくて、『文化』的な『祭』なんだよな」


先生はそう言いながら、『文化』の部分にアンダーラインを引いてコンコンとチョークで音を鳴らした。


「だから、うちの高校では、ただのお祭り騒ぎじゃなくて、文化の要素があるものを出し物にしないといけないんだよ」


なるほど、と嵐くんが頷く。


「コスプレ喫茶で仮装するだけとか、縁日の遊びを真似するだけとか、お化け屋敷で脅かすだけとか、そういうのじゃなくてな」


それを聞いて、みんながええーっと声を上げた。

文化的、という言葉は、何というか、堅くて難しそうなイメージがある。

文化祭の定番というイメージの縁日やおばけ屋敷が駄目なんて、他にどんな出し物があるのだろう。


みんなの戸惑いを察したのか、先生が「ちなみに」と再び口を開いた。


「去年、クラス企画で優勝したのは、展示部門では『メソポタミア文明の軌跡』で、劇部門では『現代版源氏物語』だったな。まあ、そういう感じの、学問にからんだものとか、きちんと調べてまとめ上げたような企画が評価されるってことだな」

「………」


沈黙が流れる。

先生が並べたクラス企画はどれも難しそうで、正直に言うと、あまり楽しそうでもなかった。

みんなのテンションがどんどん下がっていく。


すると先生は空気を変えるようにぱん、と手を叩いて、


「おい、やる気なくすなよ! 企画ランキングで上位に入ったら、何か良いことがあるかもしれないぞ?」


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