傷つけたくない 抱きしめたい
暑くない? という疑問を私が口にすると、雪夜くんはゆったりとこちらを向き、小首を傾げた。


「……なんで?」


ぽつりと問い返されて、私は少し口ごもってから、


「だって……長袖、着てるから」


と答えた。


その瞬間、雪夜くんが目を見開いた。

そして右手をぱっと上げ、左腕の袖をくっと押さえるような仕草をする。


「……どうしたの?」


驚いて訊ねると、雪夜くんは押し黙って唇を噛んだ。


「……別に、いいだろ。俺が何を着てようが、お前には関係ない」


関係ない、という言葉に胸を刺されたけれど、なんでもない顔をして、

「それもそうだね、ごめん」

と謝った。


雪夜くんの言う通りだ。

彼がどんな服装をしていようが、私には関係のないことだし、口出しをすることじゃない。


なんとなく気になったから訊いただけで、深い意味などなかった。


軽はずみだったな、と自分の言葉に対する反省と後悔が押し寄せてきて、私は俯く。


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