傷つけたくない 抱きしめたい
相変わらず、一人だけ違う世界にいるようだ。

ゆるく吹く風が雪夜くんの髪を揺らすと、つやのある黒髪が陽の光を反射してきらきらと輝いた。


「ええー、どっちだろ。やばい、本気で分からない」


困り果てたような梨花ちゃんの声が耳に入ってきて、雪夜くんに目を奪われていた私は我に返った。

見とれてしまっていたことが気恥ずかしくて、梨花ちゃんと嵐くんのほうに目を向ける。


「うん、困ったね、どうしようか……」


ほとんど上の空で呟くと、ふいに近づいてくる足音がして、目を向けると雪夜くんが隣に立っていた。


「……ちがう。教会は」


ぽつりと呟く声。

驚いた三人の視線が雪夜くんに集中する。


「教会は、あっちだ」


雪夜くんはそれにかまわず、すっと手を伸ばして向こうの小道を指差した。


鬱蒼と繁る鮮やかな緑の樹々に両側を彩られた、細い上り坂。

舗装されていない剥き出しの地面に、濃い影が落ちている。

奥のほうはさらに細くなっていて、よく見えなかった。


どこか懐かしい感じのするような、不思議な雰囲気のある坂道だった。


「なに? あの道を上っていけば教会があるの?」


梨花ちゃんが首をかしげて訊ねると、雪夜くんは小さく頷いた。


「なんだよ雪夜、教会の場所、知ってるのか?」


嵐くんの問いには、今度は雪夜くんは答えない。


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