傷つけたくない 抱きしめたい
「……なんかよくわかんないけど、行こうか」


梨花ちゃんは首をひねりながら私に言った。

私も不思議に思いつつ、二人を追いかける。


坂道は続く。

途中、分かれ道が二度あった。

でも、雪夜くんは迷いなく進んでいく。


道はどんどん細くなって、もう車一台通るのがやっと、という道幅になった。

そのうち、土が剥き出しになっていた地面が砂利道に変わった。

みんなの靴が砂利を踏みしめる音と蝉の声が混じりあう。


いつの間にか陽射しは強くなり、うっすらと汗ばむほどの気温になっていた。


長い上り坂と暑さに少し疲れてきて、俯きながら歩く。


ふと視界の明るさが変わった気がして、私は目を上げた。

その瞬間、思わず息を呑む。


大きく折れ曲がって左へとさらに上っていく道、そして右手には開けた場所があった。


明るい緑の芝生と、その真ん中を通る砂利道。

その先には、古びた小さな教会があった。


細い三角形の屋根と、灰色に色褪せた外壁。

二階建ての一軒家と変わらない大きさだ。


「……こんなところに、本当に教会なんてあったんだ」


隣の梨花ちゃんが独り言のように呟いた。


「知らなかったな」と嵐くんが答えるよう言う。


雪夜くんを見ると、無表情に黙ったまま教会の屋根を見上げていた。

それからゆっくりと振り返る。

視線が一瞬、絡み合った。

でも雪夜くんはすぐに前に向き直る。


< 134 / 303 >

この作品をシェア

pagetop