傷つけたくない 抱きしめたい
何かあったのかな、と思って、私も横から覗きこむ。

その瞬間、驚きで呼吸を忘れた。


「なに、これ……壊れてるの?」


教会の内部は、私の想像とは違い、驚くほど悲惨な状態だった。

黴くさくて生温い空気、舞い上がる埃、床や椅子の上を埋め尽くす細かい粉塵。


でも、それより何より驚いたのは、天井にぽっかりと空いた穴だった。


半径二メートル近くはありそうな大きな穴だ。

その向こうに鮮やかな青空が見える。


そして、そこにあったはずの屋根材は、ぼろぼろに崩れて中に崩れ落ちていた。


「……そうか。ここはもう使われてないんだな。廃墟になった教会なんだ……」


嵐くんが言った。


そうだ。ここは廃墟の教会。

古くなって壊れた、誰も訪れない、忘れ去られた教会。


でも……。


「――こんなんじゃなかった……屋根は崩れてなんかなかったはず……」


薄く開いていた唇から、言葉が洩れた。


無意識だった。

自分の声じゃないみたいだった。


だから、梨花ちゃんに「え?」と訊かれたとき、自分でも驚いた。


「え……今、私が言った?」


思わず訊き返すと、梨花ちゃんがぐっと眉間にしわを寄せて、「美冬、大丈夫?」と心配そうに顔を近づけてくる。


「美冬の声だったよ、確かに」

「そう、だよね……なんて言ってた?」

「ええ? 本当に大丈夫?」


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