傷つけたくない 抱きしめたい
電話を終えてから、私はピアノの蓋を開く。

鍵盤を気の向くままに押さえながら、写真立ての中のお母さんに心の中で語りかけた。


高校生になってから、嬉しくて楽しいことばかりだ。

友達と一緒に買い物に出かけたり、夏休みに海へ遊びに行ったり、まるで青春小説や少女漫画のようなことを私が経験できる日がくるなんて、中学の頃は思いもよらなかった。


清崎高校に入って、あのクラスになって、よかった。

私をどんどん引っ張ってくれる梨花ちゃんと嵐くんに出会えて、そして雪夜くんにも出会えてよかった。

無愛想だけど、最近は少し話せるようになってきたし。


そんなことを考えながら、ふと思う。

普通の家の女の子たちは、家に帰ったら、例えば一緒にお茶をしたり、家事を手伝ったりしながら、お母さんとこんな話をしているのかな。


周りの女子たちの話を聞いていると、休みの日にお母さんと二人でショッピングに行った、というのも聞いたりする。

そういうときにカフェで甘いものを食べたりしながら、学校の話をしたり、好きな人の話をする子もいるらしい。


少し羨ましい気もしたけれど、私にはお父さんと佐絵がいる。

二人が帰ってきて夕食を終えたら、いつも一時間くらいはお喋りをする時間がある。


ちょっと照れくさいけれど、今日の嬉しい話をしよう。


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