傷つけたくない 抱きしめたい
雪夜くんは、いつものように猫背でこちらへ歩いてきた。


でも、あれ? と私は首を傾げる。

いつもよりも足取りがゆっくりで、そして、どことなく元気がないような気がした。


「おはよ、雪夜。珍しいね、寝坊?」


梨花ちゃんが声をかけると、雪夜くんはゆっくりと顔をあげて、それから手首の時計に視線を落とした。

そこで初めて時間が過ぎているのに気がついたようで、かすかに眉を上げた。


「……ごめん、遅れた」


ぽつりと謝るので、梨花ちゃんが驚いたように目を丸くする。

嵐くんが「気づいてなかったのかよ」と笑いを含んだ声をかけたけれど、雪夜くんは何も答えない。


その横顔を、私はじっと見つめる。

彼はもともと色が白いほうだけれど、その頬は、いつにもまして青白いような気がした。


「……雪夜くん、大丈夫? 具合、悪い?」


気がついたときには、そう問いかけていた。

雪夜くんが気だるげに首を巡らせて、無表情で私を見る。


「悪くない。ただの寝坊だ」


きっぱりと言われて、そう、と返すしかなくなる。


「遅れて悪かった。行こう」


雪夜くんはそう言って、駅に向かって歩き始めた。


やっぱりいつもの彼と雰囲気が違うような気がしたけれど、どうすれば、何を言えばいいか分からず、黙ってその背中を追った。


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