傷つけたくない 抱きしめたい
*
「――神様」
雪夜くんの声が、聞こえる。
「神様……お願いです」
暗闇の中、うつろに開いた私の瞳に映るのは、雪夜くんの姿。
崩れ落ちた屋根と雪の隙間から洩れるわずかな月光に、夢のように青白く浮かび上がっている。
雪夜くんは、今にも狂い出してしまいそうな痛々しい表情で、震える声で、ただひたすらに祈りつづける。
「どうか、神様……」
自分の身体から、背中の傷から、どくどくと命が流れ出していくのを感じた。
急速に体温が失われていく。
それでもなぜか、少しの寒さも怖ろしさも感じないのは、雪夜くんが私の身体をきつく抱きしめてくれているからだと、私は知っていた。
「助けてください……お願いします……どうか、どうか、美冬を助けてください」
雪夜くんが何度目かの悲痛な叫びをあげたとき。
闇に沈んでいた世界が、ふいに、真昼のように明るくなった。
『……分かった。それほどに強く祈るのならば、お前の願い、聞き届けてやろう』
地の底から湧き出る泉のような。天の雲間から降り注ぐ光のような。
不思議な声が、どこからか響いてくる。
かみさま、と雪夜くんがつぶやいた。
『私がその者の命を助けてやろう』
ああ、とため息のように声をもらした雪夜くんは、安堵したように静かに目を閉じた。