傷つけたくない 抱きしめたい







「――神様」


雪夜くんの声が、聞こえる。


「神様……お願いです」


暗闇の中、うつろに開いた私の瞳に映るのは、雪夜くんの姿。

崩れ落ちた屋根と雪の隙間から洩れるわずかな月光に、夢のように青白く浮かび上がっている。


雪夜くんは、今にも狂い出してしまいそうな痛々しい表情で、震える声で、ただひたすらに祈りつづける。


「どうか、神様……」


自分の身体から、背中の傷から、どくどくと命が流れ出していくのを感じた。

急速に体温が失われていく。


それでもなぜか、少しの寒さも怖ろしさも感じないのは、雪夜くんが私の身体をきつく抱きしめてくれているからだと、私は知っていた。


「助けてください……お願いします……どうか、どうか、美冬を助けてください」


雪夜くんが何度目かの悲痛な叫びをあげたとき。

闇に沈んでいた世界が、ふいに、真昼のように明るくなった。


『……分かった。それほどに強く祈るのならば、お前の願い、聞き届けてやろう』


地の底から湧き出る泉のような。天の雲間から降り注ぐ光のような。

不思議な声が、どこからか響いてくる。

かみさま、と雪夜くんがつぶやいた。


『私がその者の命を助けてやろう』


ああ、とため息のように声をもらした雪夜くんは、安堵したように静かに目を閉じた。


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