傷つけたくない 抱きしめたい
クラス中の視線を集めた染川さんは、一瞬気まずそうな顔つきをしたけれど、すぐに笑顔を浮かべて説明を始めた。


「実はそうなんだよね。お父さんの仕事の関係で、幼稚園から小学五年までアメリカに住んでたんだ。って言っても日本人学校通ってたから、日本に帰ってきても違和感はなかったんだけどねー」


なんでもなさそうに染川さんは言うけれど、やっぱりアメリカに住んでいたなんて聞くと憧れてしまう。

英語もきっと流暢に話せるんだろうな、と思うと、すごいなあと感心する。


「で、国語担当が霧原な」


また唐突に名前が出されて、私は跳ねるように顔をあげた。

にんまりしている先生と目が合う。


「霧原、いつも本読んでるもんな。国語できるだろ」

「え……でも、あの」


たしかに本を読むのは好きだけれど、国語がずば抜けてよくできるわけでもないし、ひとに教える才能なんか私にはない。

それに……。


「そんな気負わなくていいんだぞ? ただ、ここは重要だから覚えとけ、みたいなことを遠藤に言ってやってくれればいいんだ」

「……はい」


なんだか断れなくなってしまって、私は押しきられるようにして小さく頷いた。


それから、不安になって隣の席をうかがう。

予想通り、遠藤くんは険しい表情をしていて、しかも小さく舌打ちまでした。

心がずきりと痛む。


ああ、本当に、遠藤くんは私のことが嫌いなんだ。


ねえ、遠藤くん。

どうして、きみは、そんなにも私のことが嫌いなの?


そんなことを考えながら、この先に訪れるであろう彼の拒否を思って、私は小さくため息をもらした。



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