傷つけたくない 抱きしめたい







「……ええと。じゃあ、とりあえず、自己紹介からいくか」


放課後の教室。

先生に指名された三人と、遠藤くん。

普段では絶対にありえない組み合わせの四人で向かい合うと、しばらく気まずい沈黙が流れて。

それから、三浦くんが空気を変えるように口を開いてくれた。


「三浦、たまにはいいこと言うじゃん。やっぱり最初は自己紹介だね」


染川さんが三浦くんの言葉に頷き、遠藤くんに向かってにっこりと笑いかける。


「じゃ、私からいくね。染川梨花、北中出身。よろしくね、遠藤くん」


遠藤くんはちらりと目を向けただけだった。

きっと、それが彼なりの最大限の挨拶なのだろう。


「俺は、三浦嵐。中学は港南だよ。よろしくな、遠藤」


三浦くんも人懐っこい笑みで遠藤くんに声をかけ、すっと右手を差し出す。

遠藤くんは迷惑そうに眉をひそめて、それでもゆっくりと身を起こすと、手を出して三浦くんと握手をした。


あの無愛想な遠藤くんが握手に応えるなんて、と驚いてしまったけれど、男の子に対しては少しは壁が低いのかもしれない。


ぼんやりと三人の様子を見ていると、三浦くんと染川さんの視線が私に集まった。

次は私の番だ。

心臓がばくばくと音を立てはじめる。


遠藤くんだけは、いつものように窓の外を見ていた。



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