傷つけたくない 抱きしめたい
「いいのか?」


唐突にそんな声が聞こえた。

遠藤くんだ。


彼は三浦くんを見て、染川さんを見て、それから一瞬だけ私に目を向けた。


「いくら部活に入ってないからって、毎日毎日ヒマってわけじゃないだろ。お前らだって、用事くらいあるんじゃないか?」


遠藤くんは静かに言いながら、窓の外に視線を投げる。


「私は大丈夫だよ、暇人だから。他の二人は?」


染川さんがそう言って私と三浦くんを見た。

三浦くんは大きく頷く。


「俺も大丈夫。どうせ家に帰ってもやることないし、勉強会やれば、自分の勉強にもなるしな」


二人の答えを黙って聞いていた遠藤くんが、


「……そいつは?」


と小さく言った。


私のことだと分かった。

今まで無視ばかりされていたのに、いきなり話に出されて、勝手に鼓動が早くなる。

動揺を隠しながら、私は「大丈夫」と答えた。


すると遠藤くんの横顔が動いて、こちらに視線がとまった。


「本当に、いいのか」


念を押すように訊かれて、どうして私だけ、と思いながら、「うん」と頷く。


「……家のこととか、習い事とか、色々あるだろう」


彼はまるで独り言のようにつぶやいた。


どうしてそんなに、と思ってから、はっと気がついた。

きっと、彼は私にこう答えてほしいのだ。

『私は忙しいから、この勉強会に参加するのは無理だ』と。

彼はこのグループに私が入っているのが嫌なのだ。

だから断ってほしいのだ。


そうすれば、大嫌いな私と顔を合わせずにすむから。


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