七生報国
私はAと授業で同じになるときがあり、話す機会が舞い降りたのだ、ここで彼を見透かしてやろうと思った。正直に言えば、Aとの関係において私を優位にたたせようとしたのか、少なくとも同等の場所にいられるようにしたかったのでしょう。
「A君、君と話すのは二回目だったね。今日の授業は同じ班だ。よろしく頼むよ」
「あぁ君か。Aでいいよ。よろしく」
私は彼が私の存在を忘れていたような態度に、強い失望を感じた。Aには、私など気にする存在でもないのであろう。ここで若い私はなんとか食らいついてやり、自分を認めさせようと思った。
「最初だし、Aの趣味から聞こうかな。なにかあるかい? 」
「そうだね、部活で華道をしているよ。週3だね。そっちは、どうだい? 」
「釣りだよ」
「そうなのか。頻度は? どれくらいやるの? 」
「月に1回だよ」
こう言った後すぐ、Aは左側の頬を少し引きあがらせ、少し歯を見せた。そのAの顔は、私を残念に感じ、寂しげなものであった。それは、趣味がないと言えよと言わんばかりなのであった。私は、あわてて弁明するしかなかった。
「釣りってやつは、そんなもんさ! 釣りばかり行けないよ! 海なんか遠いし、行けやしないんだ! 確かに近くの川に行く時はあるけど、そんな行けないよ! 」
Aは、回数が少ないというのは情熱がないのだという評価を下したようであった。私としては。3歳から始めて14年もの経歴があり、悪天候の中でやったり、一生の趣味としてやろうという釣りに対する姿勢を、こんなにも歪められると思わなかった。この状況の原因は、私の説明不足か! 違うのである。思うに相手が知らないものや実際に行ったことがないものについて熱弁したところで、理解はされないのである。そして煙たがられるのだ。釣りというものは、釣り場で実際にやっているだけでなく、情報収集なども釣りであるし、お金も沢山かかるし、魚へのダメージがあるなどとと言ったところで、分かりはしないのである。そしてAは私に次なる質問をした。
「じゃあ、どんな部活をやっている? 」
「やっていないよ。帰宅部なんだ」
Aは、私を先ほどより蔑んだ。どうしようもないものを見る目をしていた。Aは、私が学生に与えられている多くの自由な時間をただただ潰してしまっており、なんの好奇心もない可愛そうで貧相な者で、人生を楽しんでいないだけでなく、それを取り繕うと何ともない釣りという嘘に近いちっぽけなものまでだす醜い不幸な塊と私を見ているのだ。もう私の劣等感は最大限に達しており、私の胸が苦しめられ、私の生の本質を傷つけているのを感じた。だから、ここから逃げ出してしまって、この苦しさから解放されたかった。また私は、Aにやられたのである。しかしAが趣味の部分に部活を答えたところに私は苦情をいれてやりたかった。そして出来るならば、部活を趣味に答えるだなんて、おそらく部活をやめたら華道を一生やらなくなるはずだ、そんな程度のレベルで私は釣りを考えていない、そこまで好きなものが無いのかAよと見下してやりたかった。だが、やはりあの状況では、私の言葉は言い訳となってしまうのであろう。私は、低い地位の私に甘んじるしかなかったのです。私は、つまらない男として、この時間を生き、授業が終わるのを待つのか。筋肉トレーニングで肉を手に入れ、男らしさを磨いたところで私という人間は、こうもダメなのか。
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