29歳、処女。
うちは親が田舎出身で、年もけっこういっているから、古くさい言い回しをすることが多い。
そんな環境で育ったせいで、私も親の口調がうつってしまっていて、ときどきこういう言い方をしてしまうのだ。
「………でも、しかたないじゃないですか。だって喜多嶋さんが、破廉恥としか言いようのないこと言うから」
「べつに、処女なの?って訊いただけじゃないか。こんなの、放送禁止用語でもなんでもないだろ」
喜多嶋さんは平然と言ってのけるけど。
「放送禁止とかどうとかじゃなくて、デリカシーがないって言ってるんです!」
先輩相手だというのに、私は思わず声をあらげてしまった。
そこまでして必死に訴える私の気持ちをどう思っているのか、喜多嶋さんはにやにやしながら腕を組み、「で?」と首を傾げる。
「で? 結局、どうなんだよ? お前、まだ男を知らないわけ?」
「………っ」
「あははっ、顔真っ赤だし! いいよ、返事しなくても答え分かったわ」
喜多嶋さんはお腹を抱えて笑い始めた。
「やっぱりなあ。さっき柏木の話聞いてる時のお前の反応見てて、あまりにも動揺してたから、もしかしてそうじゃないかと思ったんだよ。いやーしかし、処女なのかあ、お前」
………ほんと、最低。
デリカシーがないにも程がある。
私は泣きそうな気分で俯いた。