29歳、処女。
「………悪かったですね」



泣き寝入りするのが悔しくて、精一杯の反撃を試みる。



「未だに経験なくて悪かったですね………しょうがないじゃないですか、機会がなかったんですから」



きっと顔をあげて恨めしげに見つめると、喜多嶋さんは意外にも目を丸くしていた。



「は? 悪いなんて言ってないだろ?」


「笑ったじゃないですか」


「そりゃ笑うだろ。三十路で処女とか、どこの天然記念物だよ」


「まだ三十路じゃありません、ぎりぎり!」


「あーはいはい」


「私だって、好きで処女なわけじゃないんです!」


「ふうん。でもまあ、いいだろ、べつに処女でも」


「あなただってさっき笑ってたじゃないですか! 言ってることが違いますよ」



もう、話にならない。


喜多嶋さんって、わけが分からない。



「………」



どうしようもなくてうつむき加減のまま黙っていると、ふいに喜多嶋さんが身をかがめて、顔を覗きこんできた。



「………そんなに嫌なわけ?」



唐突な問いに、わけが分からず私は首を傾げる。





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