29歳、処女。
「もう、なんでいちいちそんなに直接的なんですか………少しはオブラートに包んでくださいよ」


「直接的で何が悪い? へんにぼかして意志疎通しにくいのより、よっぽど効率的だろ」



そうだ、喜多嶋さんはそういう人だった。



「………そういうこと、したいっていうか、そういう具体的な欲望っていうより、知らないことが不安で、とにかく知りたいっていうか」



すると喜多嶋さんは呆れたように息をついた。



「回りくどいな。つまり、やりたいんだろ?」



私はぐっと言葉に詰まって、喜多嶋さんを見つめ返す。


馬鹿にされているのかと思ったけど、喜多嶋さんの顔にはからかいの色は浮かんでいなかった。



「………このままじゃいやだし、だめだって分かってるので、………たいです」



勇気をふりしぼって言ってみたものの、やっぱり恥ずかしすぎて声がかすれてしまった。



でも、喜多嶋さんは気にしたふうもなく、にんまりと笑う。




「よし、わかった。後輩のために一肌ぬいでやろう」




え? と私は目をあげる。



喜多嶋さんは至極真面目な目付きで、


「協力してやるって言ってんだよ」


と自信たっぷりに言った。



「え? 協力って………何の?」



ぼんやりと問い返すと、喜多嶋さんが腕を組んで満面に笑みを浮かべる。



「お前の処女ライフ脱却のために、この俺が特別にレッスンをしてやる。どうだ、ありがたいだろ?」


「………はい?」


「俺がお前を大人の女にしてやるよ」



私はぽかんとしたまま、しばらく喜多嶋さんの顔を凝視していた。





< 13 / 97 >

この作品をシェア

pagetop