29歳、処女。
「本当だよ! 何分待ったと思ってるんだ」



期待した私が馬鹿でした。

喜多嶋さんが、そんなことくらいで褒めてくれるわけがない。


むしろ、怒りに火を注いでしまったようで。



「この俺に待ちぼうけを食らわせる女なんて、はじめてだぞ?」



喜多嶋さんは険しい顔で私を睨みつけてくる。

本当にこのひとは、どうしてこんなにいつも不機嫌そうなんだろう?



「うう、ごめんなさい………でも、あの、しかたなかったんです。会社を出ようとしたところで、コピー頼まれちゃって」


「は? そんなん、用事があるから失礼しますとか、明日やりますとか、いくらでも言いようがあるだろ」


「でも、断れなくて………」


「誰に頼まれたんだよ」


「あ、相羽さんですけど」


「ああ? じゃ、つまり、俺との前々からの約束より、相羽が急に頼んできた仕事のほうが大事だと判断したってことだな、お前は」


「そっ、そういうわけでは、断じて!」



私は必死に首を横に振った。


そこにビールが届けられたので、とりあえず、話が中断する。



「ま、とりあえず乾杯するか」



お酒好きな喜多嶋さんは、ビールを見たとたん、にっこりと笑顔になる。


なんて現金なひとだろう。

でも、機嫌が治ってくれたのは、私としては助かる。



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